読書はいちばんの現実逃避方法でした。本を読めば違う人間になれる。現実の自分と違う世界は安全で、深くて、楽しい。そう思って大人になったとき、ふと気がついたのです。「あれ、私の現実の人生、本によって狂っちゃってない・・・?」いつのまにか、読んだ本によって「現実」そのものを変えられてしまっていたのに気がつきました。そんな人生を狂わされてしまった著者の大きな声のつぶやきが、心にささってしまいました。
現実逃避したくて本を読んだのに
人生を振り返ると、自分で思いもよらなかった選択をするとき、いつも傍には本がありました。たとえばある本をきっかけに受験を決めたり、ある本について知りなくなってしまい、就職活動をやめ大学院への進学を決めたりなど。いつのまに、現実と本が交差してしまったのか。その答えを知ったのは「アフターダーク」村上春樹という小説の中で、「何かを本当に知りたいと思ったら、人はそれに応じた代価を支払わなくてはならない」という教訓でした。
本は世界を見せてくれたり、教えてくれます
本はいつも「ここまで来れば、こんな世界を見られるよ」と教えてくれます。その世界を、とても詳細に、魅力的に。だけどそこへ自分がたどり着くのは、案外きつい。正義のヒーローはかっこいいけど、自分が現実にヒーローになったり成長したりするには、苦労と時間が必要です。哲学書を読むのは楽しいけれど、本当に理解するには積み上げた知識を必要とします。
運命の神様との出会い
ふつうはそんなに苦労したくないし、現実と物語は違う。物語は恐ろしく魅力的にその頂上の景色を語りながら、「こっちおいで」って囁く神様に出会うことがあります。そんな神様の誘惑と戦うのだけれども、負けるときは負けます。その本に引っ張られてしまう、全面降伏です。こうなってしまえば私の人生はその本のものです。その本をもっともっと理解したくなるし、その本に背くような人生は送りたくない、って思っちゃうのです。
人生を狂わせる
快適な場所を離れるのはきついけど、でも本を愛しちゃったからしょうがない。バカな男に引っかかった女の言い分ですが、今さらその恋を見逃すことはできないし、嘘はつきたくない。誠心誠意、その本を理解するために、そんな本を愛するために生きるのです。つまりは人生を狂わされるってことです。
<レビュー>
本に引っ張られ人生を狂わすって表現が、見事に的を得ているなと気づかせてくれました。私は小さい頃から自伝や科学に興味を持ち、エジソンの自伝を読んではそちらに引っ張られ、アインシュタインの相対性理論を読んでは時空やら時間やらミクロやらの世界の空想にふけり、渋沢栄一の「論語とそろばん」を読んでは、その時代の歴史に興味をもってしまい、さらにはその人たちが読んでいた哲学やら・・・どんどん深海にはまってしまった次第です。小説はあまり読まないのですが、こんどはそっちにも、いやいやほどほどにしたい。でも・・・