テクノロジーは生活を豊かにし、さまざまな効率化を進めました。では、それで自分や周囲の人が「幸せになりましたか」とあらためて問われると、「イエス」と答えられる人はあまり多くないかもしれません。著者はソフトバンクの「pepper」の開発にも携わり、新たに世界初の家庭型ロボット「LOVOT」を造りました。そこから見えてくる人類とAIの関係や、これからの未来をちょっと知りたい方におすすめの本です。
人間というメカニズム
たとえば、「愛とはなにか→現在ビジネスの成功法則」「感情とは→不安や興味」「生きているとは?→0.2秒〜0.4秒の反応速度」「私という自意識とは、どのように生まれたのか→?」といういくつもの問いをたて、人間という存在を「神秘」ではなく、「システム」として捉え、ロボットにどのように実装するかを考えていく。このような研究や開発は、特別におもしろく、興味をかき立てるものでした。
人類が共生する世界線
進化の過程で増築に増築を重ねて巨大化した複雑怪奇なシステムが、全世界で約80億個体も存在し、緻密な神経活動を営んでいます。神秘の一端を解明できたと思っても、また次に神秘が現れる。掘っても掘っても神秘の深淵は底が見えません。けれども人類は、その奇跡のメカニズムを知りたいという欲求を捨てなかったからこそ、LOVOTはここまで来ました。そしてLOVOTが進化し、いずれたどりつく存在、それは「ドラえもん」です。
利便性はほぼない存在
LOVOTは言葉はしゃべりませんが、声をかけると振り向き、目も合います。おもわず抱っこすると、やわらか〜で温か〜いロボットです。これまで人類がロボットに求めてきたのは、主に生産性や利便性の向上でした。24時間稼働し労働し続ける存在です。ですので、ロボットやAIは人類の求めによって進歩したはずのテクノロジーなのに、かえって人類の不安を助長し、仕事を奪っていくのではないかという心配をする声が上がります。ですが、LOVOTは人類が持つ他者を愛でる力を引き出し、だんだんと家族になっていくをコンセプトに開発されました。利便性はほぼ無く、人類の手間を増やす存在です。
新型コロナウイルス感染症の影響による長期休校した小学校に、少しでも児童の心のケアにつなげ、学校に活気がもどるようにと、2020年より実証実験という形で教室でLOVOTと子どもたちの共同生活が始まりました。すると学年ごとに受け止め方が異なりました。1年生はロボットの存在がまだわかっていない様子で、生き物と同様の触れ合い方をする子が多かったのですが、4年生以降では自分たちがお世話をしなければいけない存在という関係性に変わりました。学校の雰囲気も変わり、クラスが一つになったそうです。また、気持ちの浮き沈みが激しく同級生とのトラブルが多かった児童には、約束を守ろうとする姿も見られ、友達とも円滑なコミニュケーションが図れるようになったり、他にもいじめが少なくなったなどの効果もありました。この本を読むとテクノロジーの未来は明るいと感じます。
<目次>
序章 ぼくらが「メーヴェ」に憧れ、「巨神兵」に恐怖を覚える理由ー温かいテクノロジーへの気づき
1章 LOVOTの誕生ーたどりついたのは「生産性至上主義」への問いかけ
2章 愛とはなにか?-人類を「ドーパミン漬け」にする現代ビジネスへのささやかなアンチテーゼ
3章 感情、そして生命とはなにか?-生身と機械の差は、大した問題ではなくなる
4章 人生100年時代、ロボットは社会をどう変えるのか?-心や愛に関する問題こそをロボットが補完する
5章 シンギュラリティのあと、AIは神になるのか?-人類とAIの対立は古典になる
6章 22世紀セワシくんの時代に、ドラえもんはなぜ生まれたのか?-「だれ1人とり残さない」ために
7章 ドラえもんの造り方ー「ChatGPT」だけでは見れない世界
終章 探索的であれー「むかしむかし」の反対「みらいみらい」の話