腸は「便通」を通して健康になるための便りを常に発信して警告を鳴らしています。しかし脳は意思薄弱ですぐに誘惑に負けて、身体に悪いことでも平気でやってしまいます。精神的な疲労が重なってくると、平素考えていた優先順位を脳は簡単に変えてしまうのです。
脳はバカ、腸はかしこい 腸を鍛えたら、脳がよくなった (知的生きかた文庫) [ 藤田 紘一郎 ]
悪いことでも報酬を求める脳
ネズミにストレスを与えると、一種の逃避行動として食べすぎてしまうことがわかりました。腸には悪いことでも脳は「自分の報酬系を活性化させるため」食欲を満たす行動をしてしまうのです。報酬系とは、人や動物が欲求が満たされ、あるいは欲求が満たされるのがわかっている場合、脳の「報酬系」と呼ばれる部分が活性化して、「快」の感覚を与えていることがわかっています。
脳は目先の快楽を重視
欲求には、喉の乾き・食欲・体温調節などの生物学的欲求のほかに、人の場合、他者に誉められたり愛されることなど、より高次で社会的・長期的なものまで含まれています。たとえば、恋愛をすると、ドーパミンというホルモンが脳に出現します。これが脳を覚醒させ興奮状態にし、快感を誘ったり創造性を発揮します。そうすると将来の幸福を追求するよりも、短絡的な目先の快楽を重視するようになり、生物としてちょっとおかしな状態になります。恋愛中は周りがよく見えなくなるのはそのためです。
腸内細菌が「幸せ物質」を脳に運ぶ
ブタに乳酸菌を飲ませる研究では、肉質がよくなり病気も少なくなりました。そして何よりも目だったのは、ブタがたいへんおとなしくなりました。その理由は乳酸菌が「幸せ物質」であるドーパミンやセロトニンとう脳内伝達物質の前駆体を脳まで送ったためだと言われています。ドーパミンやセロトニンは必須アミノ酸をいくら摂取しても腸内細菌がいないと合成できません。つまりこれらの「幸せ物質」は腸でつくられるのです。また、腸内細菌は免疫力のおよそ70%も作っているとされています。
不思議な感じがしますがミミズには脳がありません。葉や小枝に触ってみて、自分の食餌にもっとも適したものだけを集めます。つまり脳がないのに、試してみて、評価して、最適なものを判断しています。脳が進化した人はファストフードなどの食べ物で「おいしい」という感覚を得ると、脳内伝達物質のβ-エンドルフィンやドーパミン、セロトニンが増えて快楽中枢が刺激され、脳が幸福を感じます。心を病む多くの人たちが偏った食物ばかり食べるようになるのは、脳がそのような食事を摂るように命令しているからです。これらの食品には脳が喜ぶ物質が多く含まれているので、悪いと知っていながら無理矢理食べさせています。しかし腸は独立して機能しており、食べすぎた時や、安全ではないものはすぐに吐き出したり下痢を起こしたりします。この本を読むと実は脳よりも腸の方が人間にとって重要だとわかります。
<目次>
1章 腸が脳よりかしこい(日本の「高齢化と少子化の謎」を解く/「脳」で考える日本人、「身体」で考えるフランス人 ほか)
2章 幸せな脳は腸が作る(腸内細菌が「幸せ物質」を脳に運ぶ/腸内細菌が脳の発達を促す ほか)
3章 腸を可愛がれば、頭がよくなる(私の体験的「子育て」論/「幼児期の英才教育」は子どもをダメにする ほか)
4章 食べ物は脳をだます、腸はだまされない(大食いによって癒される脳、壊される腸/糖質を食べすぎると、食欲を抑えられなくなる ほか)