日本人にはすばらしい特性があります。本書は忠誠心や愛国心とは別の、日本人の良い特性を世界に向けて伝えることを目的として内村鑑三が日清戦争さなかに出版されたものです。「代表的日本人」として西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮の五人をあげ、その生涯を叙述しています。
代表的日本人 (いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ) [ 内村鑑三 ]
西郷隆盛
西洋と東洋の健全な関係
明治維新とは、異質な二つの文明を代表する二つの人種が、公平な立場で交流するようになった歴史的転換点でありました。つまり「進歩的な西洋」の無秩序な拡大にまったがかかり、「保守的な東洋」が、どんよりとまどろんだ状態から目を覚ました瞬間でした。
「大西郷」の本分の自覚
少年の時、ある遠縁の人の切腹を目の当たりにしました。その人が腹に刀を突き刺す直前に、命というものは主君と国のために捧げるもの、と西郷に話しかけたのです。西郷は涙を流し、その強烈な印象を生涯忘れることはありませんでした。若い時に西郷は王陽明の書物を学びました。陽明学の教えは、数ある中国の思想のなかでも、道徳心や威厳のある天の道を説いていました。また、仏教のなかでも禁欲的な禅宗も少しかじっています。見識が広くて進歩的な日本人だった西郷の教養は、すべて東洋のものでした。
もっとも感化された人物 藤田東湖
東湖は「大和魂のかたまり」であり、ひとつの魂に昇華された日本、とも言える存在でした。正義を熱烈に愛し、西洋人の野蛮さを心から憎む東湖のまわりには、次なる世代の若者たちが集まりました。のちに弟子となった西郷は統一国家の建設、「ヨーロッパと対等な立場に立てるようになるため」の大陸への領土拡大、そしてこの日本をそこへ導く具体策が、西郷のなかで最終的な形になっていったようです。その後、一直線に人生を歩んでいきます。
西郷における大改革
ひとりの力だけでは国家の再建はなしえません。同志の中には西郷より多くの優秀な人たちがいました。内政は木戸孝允や大久保利通の方が向いていましたし、維新後の国家を平時の安定にしたものにしていくのは、三条実美や岩倉具視の方がはるかに優れていました。それでもなお、西郷なしでこの維新が可能だったかは疑問です。西郷は維新全体を動かし始める原動力、そして維新を具体的なものにし、天の全能なる道が示す方向への推進する人物でした。
代表的日本人 (いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ) [ 内村鑑三 ]
この本で、私は中江藤樹を知りました。28歳のときに行商をやめて、田舎の村に私塾を開き、中国の古典、歴史、詩歌、書道を教えていました。かつての日本は学校は、修学後に暮らしが立てられるように学ぶところではなく、「真の人間」になるためであり、そうした人は「君子」と呼ばれていました。藤樹の人生観がよくわかる「積善について」こう語っています。「大きな善行は名声をもたらしますが、小さな善行は徳をもたらすのです。世の人々が大きな善を進んで行おうとするのは、名声がほしいからです。しかし名声のために行えば、たとえ大善でもとるに足らないものになります。君子は小さな善行をたくさん重ねて、徳をなします。実際、徳にまさる善はありません。徳こそ、あらゆるおおきな善行の源なのです。」この村の近辺では今でも先生のことを感謝の念をもって崇めているそうです。
