六十数戦して不敗の江戸時代初期の剣豪、宮本武蔵。「五輪書」は人生のさまざまな局面に待ち受けるさまざまな敵との闘いに勝つためのノウハウを記した「ビジネス書」でもあり、乱世を生き抜くヒントを与えてくれる「人生の指南書」でもあり、相手の心理を読む「心理学の参考書」でもあります。
五輪書 (いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ) [ 宮本武蔵 ]
「五輪書」は単なる武芸書ではありません
「五輪書」には独創的な発想のしかた、人間の深層心理の読み方、勝ち残る戦い方など、人が強く生きていくのに必要なヒントがぎっしり詰まっています。そのため、日本の混迷期・難局時には必ずといっていいほどクローズアップされてきました。1970年代ではアメリカのビジネスマンを中心にベストセラーにもなりました。
兵法の道を「二天一流」と命名し、長年鍛錬
宮本武蔵は三十歳までは兵法の道を極めて勝っていたのではなく、生まれつき武芸の能力に恵まれ、天の采配にかなっていたため、あるいは他流派の兵法が未熟だったからであると語っています。その後より高度な道理にたどり着こうとして、朝な夕なに鍛錬し精進を重ねることで自然な形で兵法の真髄を獲得できました。それは五十歳頃とあります。そもそも、兵法とは「武家の法」であり、「武士の兵学、軍学、用兵術の総称」です。武士たる者は特にこの道に精進するべきであると述べています。
兵法の目指す真の道とは
武士が思っていることをおおまかに推し量ると「武士とは、ただ潔く死ぬということを究極の目的として生きている」とあります。言うなれば、死を覚悟し、どんな場合でも人より優れることが基本条件である。兵法の道を習っても、実戦には何も役に立たないというのではなく、習う方は、いついかなる時でも実戦に役立つという気持ちで稽古し、教える方は、どんな場面でも役に立つように手ほどきするということ。この精神こそが、兵法の目指す真の道であると語っています。
五輪書には兵法の道を五つにわけ、「地の巻」は二天一流の見方や考え方を説き明かし、「水の巻」は生命の源の水を兵法を手本とし、「火の巻」では戦いや勝負のあり方について、「風の巻」は他の流派の兵法についてそれどれ明確に記し、「空の巻」は意識することなく自然と真の兵法に入る方法を語っています。「地の巻」には兵法の道は大工の棟梁と武士の棟梁は変わりがないと書かれている点も、現代でも通じるものがあります。まさしく真剣に生きた宮本武蔵の言葉が「五輪書」には溢れています。
<目次>
地之巻(兵法の道ということ/兵法の道を大工にたとえること ほか)
水之巻(兵法の心の持ちようのこと/兵法の身なりのこと ほか)
火之巻(場の次第ということ/三つの先ということ ほか)
風之巻(他流派が大きな太刀を持つこと/他流派の「強みの太刀」ということ ほか)
空之巻