睡眠をとる動物は、ヒトだけではなく、イヌやネコも眠ります。19歳の時、水の中でゆらゆらと揺れ動いているヒドラという脳がない不思議な生き物に興味をもち観察。自ら体を動かして餌を採り、ときに動きを止めて休む状態があり、その状態は眠っているかのようだった。睡眠の基本的な要素が、脳をもたないヒドラにも存在するのか?研究を続けた結果、その睡眠をコントロールする遺伝子がヒドラと他の動物で共通していることを発見した。つまり、ヒドラは脳がない生き物なのだが、「脳がなくても眠る」のだ。
睡眠は生き物にとって危険な行為なのに
小学校の時、蝶道のしくみを研究していたとき、あることに気がついた。アゲハチョウが飛んでいるのを見かけるのは、午前中が多く、昼下がりになると見かけなくなる。夕方になると再び見かけるようになるが、日が沈んで暗くなった後に見かけたことはない。彼らが活動する時間は概ね決まっていてる。夜になると葉っぱの裏に隠れて休んでいるらしい。近づいても気づかれないことが多く、まるで眠っているかのようだ。周りの状況に注意を払わず休むことは、生き物にとっては危険な行為のはずなのに、なぜリスクを冒してまで休むのだろう?
人は眠らないとどうなるのか
1963年、高校生だったランディは自らの身をもって眠らない挑戦を始めた。三日目には情緒の変化が激しくなり、吐き気を催した。四日目には幻想や妄想があらわれ、道路標識が人間であるように感じたりもした。七日目には言葉が不明瞭になってまとまった話ができなくなっていた。そのまま耐え続けなんと11日間(246時間)の断続記録を達成した。軽い記憶障害や睡眠サイクルの乱れはあったが深刻な影響はなかったと論文では報告された。しかし後年、インタビューに応じた彼は、深刻な不眠症になったことを明かした。
マウスの断眠実験
マウスを断眠させると、ある実験では四日ほどで死んでしまうという。その死因を解明すると、炎症反応が過剰になり、制御がきかなくなった「サイトカインストーム」と呼ばれる状態に似て、多機能不全に陥っていた。断眠は脳だけではなく全身にさまざまな不調が生じる。眠らずに起き続けることは、困難のようだ。
<レビュー>
睡眠が不足したときに、眠らそうと抗う力。それを睡眠科学では「睡眠圧」と表現することがあるそうです。毎日の生活で「睡眠圧」は徐々に高まっていき、眠気を感じるようになる。これは眠ることで返済されるのだが、残念ながら貯蓄はできません。ようするに寝溜めはできないのです。では、睡眠圧の実態とはなんなのか。なぜ、私たちは意識をもち、毎晩わざわざ意識を喪失させるのか。睡眠の研究を皮切りにして、生物学は、そんな人類未踏の謎にせまります。
