私たちは科学が発展していると思われていますが、植物たちの1枚の葉っぱが毎日太陽の光を受けて行っている反応を、人工的に行うことすら容易ではありません。植物は動くことはできませんが、自分で栄養を作って生きていけるのです。そして、動けないからこそ繁栄するためにさまざまな戦略があります。
必要な栄養を自分でつくりだせる植物
キャベツのタネの重さは一粒が約5ミリグラムです。このタネが発芽して成長し、4ヶ月後にはおよそ1200グラムとなります。4ヶ月で24万倍に成長したことになります。キャベツの水分含量は約95%なので、それを除いても1万2000倍です。成長するにはエネルギーが必要となりますが、根から吸った水と空気中の二酸化炭素を材料にして、太陽の光を利用して葉っぱでブドウ糖やデンプンをつくりだします。他にも植物は成長に必要なアミノ酸も地中の窒素を吸収してつくることができます。必要な栄養を自分でつくって植物は成長するのです。
渋柿の巧妙さはすごい
多くの植物は、葉や茎、実やタネを虫や動物に食べられたくないときは、虫や鳥に嫌がられる「味」で守っています。味にも「渋い」「苦い」「酸っぱい」「辛い」「甘い」などあり、鳥や虫などによっても好き嫌いは異なります。渋みをもつ代表といえば、渋柿です。果肉や果汁の中に渋みが溶け込んでおり、鳥や虫に食べられることはありません。しかし、実の中のタネができあがってくると、渋柿であっても、渋みが消えて甘くなります。ところが、ほんとうは渋が抜けさるわけではありません。渋みの成分のタンニンが溶けない状態の「不溶性」に変化することで、口の中に入れても溶け出してこないので、渋みを感じなくなります。
タンパク質を分解する果汁で守る仕組み
いちじくの実は切り口からドロっとした白い液がでてくるので、虫や鳥などの動物が嫌がる効果が十分にあるでしょう。しかもこの液には、タンパク質を分解する「フィシン」という物質が含まれています。このおかげでいちじくを肉料理に使うと肉がやわらかくなります。この白い乳液は虫や幼虫のからだを構成するタンパク質を分解することで、からだを食べられることに抵抗するためです。他にも、「パイナップル」「キウイ」や「メロン」「パパイヤ」にも種類はことなりますが、タンパク質を分解する成分が含まれており、食べすぎると口のまわりがヒリヒリすることがあるのはそのためです。
よく、渋柿をさかさまにしてヘタの部分をブランデーなどにつけておくと甘くなるというのは、タンニンを不溶性に変化させる「アセトアルデヒド」という物質を利用し、「渋抜き」をするためです。だいこんが「ピリッと辛い」のも虫に食べられないようにするためといわれています。「だいこん頭、ゴボウ尻」という言い伝えがありますが、葉の近くのほうはおいしいのに、とがった先端は辛いというのは、先端が虫に食べらずに伸びるためといわれています。同じ大根でも場所によって異なる味なのは理由があるのです。本当に植物はすごい!
植物はすごい 生き残りをかけたしくみと工夫 (中公新書) [ 田中修(植物学) ]
<目次>
第1章 自分のからだは、自分で守る
第2章 味は、防衛手段!
第3章 病気になりたくない!
第4章 食べつくされたくない!
第5章 やさしくない太陽に抗して、生きる
第6章 逆境に生きるしくみ
第7章 次の世代へ命をつなぐしくみ
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