生物学者が書く、小説のような内容です。「シンイチ、給料では決して金持ちになれないよ」から始まり、いきなり引き込まれてしまいます。生物学者の日々考えている頭をのぞいているような感覚で、次から次へと難題への思考が始まります。
【中古】 動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか /福岡伸一【著】 【中古】afb
生物学の難問「記憶の問題」
記憶はどのような形で保存されているのだろうか。まずは「ある特定の記憶が、特別の分子の形をとって、海馬にある脳細胞中に溜められる」という仕組みを想定する。コンピュータでは、二進法にコード化された記憶が、それぞれの指定番地(アドレス)に磁気、あるいは化合物の変化として記憶されます。しかし、生命現象を観察すると、その想定は即座に否定されてしまいます。
生体分子は常に、「合成と分解」の流れにある
食べ物に含まれる分子は瞬く間に身体の構成成分となり、また次の瞬間にそれは身体の外へ抜け出していきます。脳も例外ではなく、脳細胞を構成している内部の分子群は高速度で変換しています。建造物で例えるとリフォームが繰り返され、建設当時に使われていた建材など何一つ残っていません。ビデオテープの存在を担保するような分子レベルの物質的基盤は脳を探してもみあたりません。
では、「記憶」とはなんなのか?
記憶を物質的に保存しておくことはできないならば、記憶はどこにあるのか?それはおそらく細胞の外側。正確にいえば、細胞と細胞とのあいだにあります。神経の細胞(ニューロン)はシナプスという連携を使って互い結合し神経回路を作っている。神経回路は、経験、条件づけ、学習、その他さまざまな刺激と応答の結果として形成される。クリスマスに飾られたイルミネーションのようなもので、ここの神経細胞の中身のタンパク質分子が、合成と分解を受けてすっかり入れ替わっても、細胞と細胞とが形作る回路の形は保持されます。
次から次へと、不可思議な難題の思考に続きます。消化とは「情報」の解体や、女性にはうれしい「太ること」のメカニズム、うつる病気とうつらない病気、体内にいる別の生き物「ミトコンドリア」など、ワクワクして興味がつきない内容です。この本を読んだのは十年くらい前になりますが、コラーゲンを食べてもそのままコラーゲンにはならない話を妻にしたところ、女性心がわかならいと怒られてた記憶がまだ私のシナプスに残っていました。
<目次>
第一章 脳にかけられた「バイアス」(人はなぜ「錯覚」するか)
第二章 汝とは「汝のたべた物」である(「消化」とは情報の解体)
第三章 ダイエットの科学(分子生物学が示す「太らない食べ方」)
第四章 その食品を食べますか?(部分しか見ない者たちの危険)
第五章 生命は時計仕掛けか?(ES細胞の不思議)
第六章 ヒトと病原体の戦い(イタチごっこは終わらない)
第七章 ミトコンドリア・ミステリー(母系だけで継承されるエネルギー産出の源)
第八章 生命は分子の「淀み」(シューンハイマーは何を示唆したか)