酵母がなかったら、この世にアルコールは存在せず、ふわふわのパンも食べられなかったでしょう。今ではバイオテクノロジー界の寵児となり、命を救う数々の薬を生み出し、気候変動抑制の一手となるバイオ燃料を大量に生産しています。今から6000年前のシュメール人は、女神ニンカシが酒を発酵させてくれるのだと信じていた。そんな古くから人間の生活に大きな影響をもたらしてくれた、微生物の世界を深く解説しています。
自然界では、アルコールは希少な分子
17世紀に顕微鏡が発明されて、真っ先に観察された微生物の一つが酵母細胞だった。その当時はこの小さな球体が生き物だとは思わず、発酵によって酵母が生じるのだと考えられた。19世紀なってようやく酵母がアルコールをつくり出す生き物であることが認識されました。酵母以外でアルコールを生成するのは、発芽中の種子や一部の細菌だけ。細菌はビールやシールドの味を損ねる不快な風味をもたらしやすいので、酒造では酵母が圧倒的に好まれます。
アルコール生成の仕組み
酵母はブドウ糖(グルコース)などの糖を燃料として自らの細胞を働かせます。エネルギーを回収するには、糖分子を小さなパーツに分解し、原子から高エネルギーの電子を剥ぎ取ります。酸素が十分あれば、酵母は2段階の反応によってブドウ糖を分解し、エネルギーを獲得し水を二酸化炭素だけを残します。しかしすぐに周囲の酸素を使い尽くしてしまい酸素を使わない燃焼、発酵に切り替えます。好気性呼吸と比べ糖分子から取り出せるエネルギーは少なくなりますが、酵母細胞がアルコールを生成して使い切ります。
人体にもたくさん存在する酵母
実は私たちの皮膚表面、耳、鼻、口、膣、消化気系は多様な酵母であふれています。その多くの活動はあまり知られておらず、それなのに酵母がたくさんいると言えるのは、綿棒検体や便検体からその遺伝子が検出されるからである。頭皮のフケは皮膚片に生息するマラセチア・グロボーサという酵母の増殖によって発生します。毛包内に分泌される皮脂を食べるマラセチアは、皮膚に常在するニキビダニと餌を奪い合うのだそうだ。
人類からみたら、神のような存在の酵母。酸素が少なくても生きていけるし、見えないけれどそこらじゅうに存在します。朝はおいしいサクサクの焼き立てのパンを食べ、夜はワインやビールで一杯も酵母のおかげ。今では文明を支えるのに最も貢献し、バイオ燃料や医学や食品産業にも欠かせない状況です。夢が詰まっている酵母をもっと学んでみませんか。
<目次>
第1章 はじめに 酵母入門
第2章 エデンの酵母 飲み物
第3章 生地はまた膨らむ 食べ物
第4章 フランケン酵母 細胞
第5章 大草原の小さな酵母 バイオテクノロジー
第6章 荒野の酵母 酵母の多様性
第7章 怒りの酵母 健康と病気
第1章 はじめに 酵母入門
第2章 エデンの酵母 飲み物
第3章 生地はまた膨らむ 食べ物
第4章 フランケン酵母 細胞
第5章 大草原の小さな酵母 バイオテクノロジー
第6章 荒野の酵母 酵母の多様性
第7章 怒りの酵母 健康と病気