カビにとって日本という国は、「天国にいちばん近い島」かもしれない。
その理由は、カビが好む環境は温度が25〜30度C、湿度が80%以上で栄養豊富なところにもっともよく発育するからです。日本のように温暖で雨の多い熱帯性気候は、カビにとっては理想的な環境だと言えます。とくに春から夏にかけては、まさに「本領発揮の季節」です。
カビはふだん、胞子の形で空中を舞っています。目には見えませんが、今これを読んでいるあなたのまわりにも、無数のカビの胞子がわんわんと飛び交っていいます。「落下菌試験法」で空中にどれくらいカビが浮遊しているか調べたところ、一般家庭の締めきった部屋でさえ、100個以上の胞子が数えられるそうです。
漂う胞子が落下し、条件が整うと芽をだして菌糸伸ばし集落を形成します。これが、いわいる「カビが生えた」状態です。
そんなカビですが、ヒトにとっていちばんみじかなカビは何だとおもいますか?
答えはカンジダ・アルビカンスです。何しろ、ヒトのからだの中に棲みついているのです。もちろん、自然環境にもたくさん生息しています。ふつう、カビはカラダの中に入ってもそのうち排除されてしまいますが、ヒトの皮膚や口腔内や大腸などの消化器官におとなしく暮らしています。
といっても、腸の中に棲みつく微生物は、乳酸菌や大腸菌など100種類以上ありますので、その中のひとつとして微妙なバランスを保ちながら正常菌叢(せいじょうきんそう)を形成しています。
そんなカンジダも病気を起こしてしまうことがあります。
たとえば、細菌感染症の治療のために抗生物質が投与されたとします。そうすると菌叢にぽっかり空き地ができ、そこにカンジダが入り込んでしまうと、わっと生えてしまいます。健康な状態であればおなかの調子が悪くなるくらいで済むことがほとんどだそうですが、からだが弱っているひとでは、腎臓、肺、肝臓、脳など、さまざまな臓器が侵され、多彩な病型を示します。
このように、医療の現場ではカビが原因の病気がいろいろあり、アスペルギルス症なども多い病気として説明されていますが、日本酒やしょうゆ、みそをつくる際に使われるこうじカビも、アスペルギルスの一種なんです。
身近な存在なのに知らないことだらけのカビですが、この本は医学的な視点にもかかわらず、素人でもわかりやすくカビの生態、細菌とカビの違い、酵母のお話、ダニは胞子だけを食べているなど、おもしろい内容で楽しく学べる本です。