2025年致知6月号
<特集 読書立国>
信長、秀吉、家康はいずれも優れた武将であることは間違いありません。その中で庶民に教育を施し導いていくことを思いついたのは家康でした。読書によって国を立派にしていくことを「読書立国」というなら、家康は読書立国の第一人者だといえます。
1999年の日本には書店が2万2000店もありました。しかし、令和7年には1万店を切りその数値は加速している。ちなみに幕末の江戸には800軒、京都に200軒あったという。江戸期末期の識字率は九割を超え世界で群を抜いていたともいわれている。
数学者・藤原正彦氏は著書『国家と教養』で、江戸末期に来日したイギリス人が、庶民が本を立ち読みする姿を見て「この国は植民地にできない」と諦めたエピソードを紹介しています。読書文化が根付いている国は支配は難しい、読書は国を守る力(国防)にもなるという。そして現在の書店数の激減は、日本の将来にとって深刻な問題だと警鐘を鳴らしているのです。
「古典歴史の学びこそ人格を磨く要であり、読書文化の復興が人類の命運を決する」
中西輝政氏
ネットやSNSのアルゴリズムは、利用者の好みに合ったコンテンツへと利用者を誘導するため、視野が偏狭になり自分の考えに近い居心地のよい思考空間から抜け出せなくなってしまう。だからこそ、人間は自分を否定してくれるような異質の情報や考えに触れることが重要であり、偶然の出会いがある書店にはその機会があると指摘しています。
また、自国の古典や歴史を学ばなくなった国は衰退し、国民の心の弱体化が国家存亡に深く関わります。愛国心や向上心を育むには古典と歴史の学びが不可欠であり、それが国家の繁栄を支えています。幕末には多くの古典が読まれ、維新の原動力となりました。
- 頼山陽『日本外史』:源氏・平氏の争いから徳川氏に至るまでの武家の衰退を描いた20巻。幕末の若者に大きな影響を与えた。
- 作者不明『太平記』:後醍醐天皇の即位から鎌倉幕府の滅亡、南北朝の合一までの50年間を描く全40巻。日本最大の歴史的ベストセラーでした。
- 会沢正志斎『新論』:国防と尊王思想を説いた書。明治維新を推進する大きなエネルギーとなり倒幕運動のバイブルとなりました。
- 山鹿素行『中朝事実』:武士道を体系づけ、経世済民の道と皇室中心主義を説いた儒学者。特に中国の思想に溺れていた当時の日本人に警鐘をならし、日本精神とは何かを詳らかにし、世界に冠たる君主国だと訴えました。
これらの宝物のような本は、「日本はこういう国なのか。日本に生まれてよかった。もっと日本をよくするために頑張ろう」と奮い立ち、近代化と精神的基盤を支えました。
今年は戦後80年を迎えますが、かつて多くの若者が戦地に向かう際、荷物を最小限に抑える中で「最後の一冊」として選んだのは『万葉集』でした。西洋政治学や経済学の思想を学んだ人でも、日本人が最後の心の拠り所として、何百年と読み継がれた4500首の歌が綴られたこの『万葉集』を持参したという。極限状況で支えとなるのは、日本人の魂に根ざした言葉でした。
「AI時代に負けない生きる力をゆく無子育て」
内田敦子氏・川島隆太氏対談
川島 スマホなどデジタル端末の長時間使用は、子どもの脳の発達を阻害する明確なデータがあります。前頭葉や側頭葉の発達が右脳も左脳も止まり、白質という情報伝達の役割を果たす部分も、大脳全体にわたって発達が止まっていました。東北大学の学生の中にも、依存症のようにずっとスマホをいじっている人たちがいますが、彼ら、彼女らの脳を調べてみると、明らかに白質の変化が見られました。つまり、若くして脳の老化が始まっているということです。さらに、心理学の専門家の調査によると、自己肯定感や共感力の低下、感情コントロールの困難など心理面にも深刻な影響が見られています。
内田 2007年に発表された米ペンシルベニア州の調査です。同地域に満期出産で誕生した1800名の健康な赤ちゃんを6年間追跡調査したところ、約300名に言語や認知機能の遅れが見られました。その生活を調べてみると、生後6ヶ月以降に1日1時間以上ビデオ教育を見せられていたことがわかりました。それでファンクショナルMRIで子供たちの脳を分析すると、言語を理解する脳のウェルニッケ野のネットワークが作られていませんでした。これでは、人の声が雑音のようにしか聞こえない状態になります。落ち着きのなさなどの行動異常も確認され、映像漬けの育児が子どもの脳発達に深刻な影響を与えることが示されたのです。
川島 デジタル端末やSNSの長時間利用は集中力を著しく低下させ、深く考えたり本を読む力を奪います。例えば、ある大手IT企業は社内調査で、デジタル端末SNSを利用している人の2割が集中力を10秒しか持続できなくなっていると発表しました。おすすめの動画や関連する広告を次から次へと表示することで、できる限り注意力を分散させ、たくさんのコンテンツを見てもらえるようにうまく作り込まれているので、一つの事に集中力を持続させるように作られていません。中毒性が高く、人々の考えや主張が右か左か、どちらか一方に極端に偏り、非常に分断されやすい社会になっていると感じます。これはデジタルの過剰使用によって「考える力」が失われていることが原因と考えられます。
内田 しつけのスタイルと語彙能力の関係を調査したところ、学力が高い子どもには「共育型しつけ」を受けていました。これは普段から親が子どもとしっかり向き合い、密なコミュニケーションをとっていること。それから自発的な遊びの時間を大事にし、「洗練コード」と呼ばれる3つのH「褒める・励ます・(視野を)広げる」を意識した言葉かけをしているということです。要するに、ほかの子どもと比べるのではなく、その子の過去と比較して成長褒めてあげる。先生に叱られたことを励ましてあげる、勉強する意義を伝えて視野を広く持たせてあげるなど、親自身が子供との楽しい経験を共有したいと思って行うのが「共有型しつけ」です。こうしたしつけを受けた子は主体的・意欲的になって伸びていくのです。一方、命令や禁止中心の「強制型しつけ」は、子どもを萎縮させ、考える力を奪います。家庭の経済状況よりも親子の関わり方が子どもの学力に大きな影響を与えることが調査で判明。親はスマホを置き、子どもとの時間を大切にしてほしいです。
致知は読むには書店では売っていないので、定期購読が必要です。
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