2025年致知7月号
<特集 一念の微>
安岡正篤の『傳家寶』という家が繫栄していくためにどういう心がけが必要かの家訓があり、第一条には、「我が幸福は祖先の遺恵、子孫の禍福(かふく)は我が平生(へいぜい)の所行にあること、已(すで)に現代の諸学にも明らかなり。」とある。幸福な人生ならば、それは祖先のおかげです。子孫が不幸になるかは、あなた次第できまるのです。
第七条には「不振の精神・頽廃(たいはい)せる生活の上には、何ものをも建設する能(あた)わず。永久の計は一念の微にあり」とある。不振の精神、すなわち、気まま、わがまま、むらっ気、朝寝坊、意欲のない、でたらめな生活をしていては何事も成し得ないということです。肝に銘じたい言葉です。
<日本復活への道>荒谷卓氏 ジェイソン・モーガン氏
モーガン 西洋では「自我」を中心に自由や個人主義が500年発展してきましたが、今や限界に達しています。例えば「我思う、故に我あり」で有名な、デカルトの哲学のように西洋では自我(私)が宇宙の中心にあり、自我から全てが始まりますが、それではお互いに自分を主張して争いが絶えないわけです。一方の日本では、自我は周囲との関係性の中から自我がつくられていく、ごく自然に周りの人や状況を慮ったうえで自分の言動を決めています。そのため、西洋的な価値観に行き詰まりを感じた人々が、日本の伝統文化や神道に新たな生き方の可能性を見出し、無意識に惹かれているのです。
荒谷 多くの外国人が日本武道を学びに来るのは、技術ではなくその精神性に惹かれているからです。武道は単なる格闘技ではなく、身体の鍛錬と精神の成長が一体となっている点に、日本武道や日本文化の本質があります。むすびの里の武道教室では、稽古の始めと終わりに正座して神棚へ礼を捧げ、参加者の真摯な稽古を神様に奉納するのが日本武道の精神です。これは格闘技とは異なる日本武道の精神です。しかし近年、神棚のない道場や精神面を教えられない指導者が増え、本来の武道の在り方が失われつつあるのは残念です。
荒谷 日本の伝統家屋では大黒柱が家の中心であり、家族や父親の象徴でもありました。しかし、戦後の建築基準法で長い柱の使用が制限され、大黒柱のない家が主流になりました。相続制度も「家督相続」から「個人相続」に変えられ家文化が崩壊。先祖代々の家や土地から切り離された個人だけが残りました。アメリカは占領政策により神道の制限や武道の禁止も含め、日本の伝統的精神文化を巧妙に消し去ろうとしました。これはインディアンにした政策とも似ています。日本の天皇にも「人間宣言」をさせ、徐々に日本人の皇室への崇敬の念が薄れるよう、日本の歴史と文化、精神的支柱である皇室が無くなっていくように仕向けられていると思われます。
モーガン 世界が一つになるのはよいことのように思われるかもしれません。しかし、一部のエリートが主張するグローバリズムは各国の文化や伝統を消し去る全体主義であり、本質的には人々を効率よく管理する手段だということです。本来、それぞれの国の異なる文化背景を持っているからこそ互いに理解し合えるのであり、文化の多様性こそ尊重されるべきです。自由や平等といった言葉に隠された統一化の流れに、日本人は早く気づくべきです。
<日本を守った豊臣秀吉の一念>平川新氏
豊臣秀吉は当初、南蛮貿易を重視しキリスト教宣教師にも寛容でしたが、次第に警戒を強めました。その背景には、キリスト教に改宗した大名が家臣に強制改宗を行い、神社仏閣を破壊したことや、ポルトガル商人・宣教師が日本人を含む奴隷売買に関わっていた事実があります。西洋の植民地支配はキリスト教布教と一体であり、日本でも短期間で多くの人が改宗していたことで、植民地化の脅威は確実に日本に迫っていました。秀吉の朝鮮出兵(1592年)も突発的なものではなく、以前から東南アジアやインドへの進出を構想していた計画的行動でした。背景には、西洋列強が布教を隠れ蓑にアジアを植民地化しようとする動きに対する強い危機感と対抗心があり、日本がそれに立ち向かう意思の表れでもありました。
秀吉の朝鮮出兵は明・朝鮮の抵抗と1598年の秀吉の死により失敗に終わりましたが、短期間で15万の大軍動員は世界に衝撃を与えました。これを見たポルトガル・スペイン勢力は、日本征服の野望を断念し、穏当な「布教によるキリスト教化」へと方針転換し、ポルトガル国王は日本人の奴隷売買も禁止させました。日本は「帝国」として恐れられ、軍事大国・日本を引き継いだ徳川家康は、鎖国政策を推進。スペイン・ポルトガル勢力を日本から追い出し、オランダ勢力も長崎の出島に閉じ込め、日本主導の管理貿易体制に従わせました。秀吉の行動は侵略行為であったことは事実ですが、日本を植民地化から守る抑止力にもなったのです。
<レビュー>
現在の中学教科書では、キリスト教の禁止や朝鮮出兵について一面的に描かれており、宣教師の奴隷売買や神社仏閣の破壊、秀吉が「日本人奴隷は自分が買い戻すから連れ戻せ!」と宣教師に通告していることも記載がありませんでした。また、朝鮮出兵も秀吉の野望のように説明され、西洋列強の植民地化への危機感や対抗心といった背景が書かれていないのです。日本を西洋の植民地化の脅威から守ったからこそ、今の日本があることに感謝します。
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