2025年致知3月号
<特集 功の成るは成るの日に成るに非ず>
栗山監督の特長は勉強の人であり、謙虚・素直な人である。俺がやったという姿勢は微塵もない。だからこと、名選手は監督の声がけに応じたのだ。世界一になった要因として、一は全員がキャプテン(キャプテンを置かなかった)。二はチームの目標がそのまま個人の目標となった。三は全員が自分の都合よりチームの都合を優先した。このような組織をつくり得たのも栗山監督の人知れず修養の積み重ねてきた集積があったからである。「功の成るは成るの日に成るに非ず けだし必ず由っておこるところあり(管仲論)」 人が成功するのはある日突然成功するわけではない。すべて平素の努力の集積によって成功するということ。さらに続きがある。「禍の作るは作るの日に作らず また必ず由って兆すところあり」禍の起こるのもある日急に起こるのではなく、前から必ずその兆しがある、ということ。禍は未然に消し、功を成すべく不断の努力が大事だということを教えている。
深まるほどに足りない自分に気づく 青山俊董氏
シュギョウには修業と修行がある。修業には一応の卒業もあるが、修行には卒行はない。むしろ深まるほどに足りない自分に気づくというのが修行のあり方です。一を知り十を知るとあるが、二どころか、十を聞いて一や二しかいただけていないこともある。「心理は一つ、切り口の違いで争わぬ」というのがある。例えば円筒形の茶筒を横に切ったら切り口は丸くなり、縦に切ったら矩形、斜めに切ったら楕円になる。茶筒の全体の姿、つまり心理は一つという姿を見ることができず、切り口しか見えていない自分に気づかなければならない。幸いに気づくことができれば、その貧しい切り口を相手に押しつけることもなかろうし、一歩進めて、切り口の違いを尊重し、学びあう姿勢になるのではなかろうか。
最高のチームをつくる要諦 白井一幸氏・津田雄一氏
白井 大事なのはゴールを全員が共有できるか。ゴールというのは目標だけではなく、目的も含めてゴール。もっと言えば、本当のゴールは目的のほうです。侍ジャパンは世界一になるという目標を揚げましたが、必ずなれるわけではありません。もっと大事なものは、野球を通して多くの皆さんに感動をお届けする。これが侍ジャパンの目的でした。全員が全力でやる。凡ゴロでも全力で走ることで、感動が生まれて野球界全員のお手本になるのです。結果は勝手についてくる。目標ばかりを見ているとおかしな方向に行ってしまうんです。
白井 最初は世界一という目標は明確でした。しかし野球を通して何を成し遂げたいのかという目的を持っている選手は少ないです。野球を好きでやっているくらいしか思っていないので、目標を追いかける。するとホームラン王を取ったら終わりなんです。大谷翔平選手の場合は、世界で最も愛され応援される選手になりたい、世界で最も影響力を与える選手になりたい。目的が明確ですから、ホームラン王になって目標を達成しても燃え尽きないんです。また、試合に出れない選手が大事なんだとも言っています。全員でゴールに向かう。不平不満を言うのではなく、今の自分に何ができるのかを考えて懇親的な行動をとる。全力で応援する姿が全体の相乗効果を生むんです。
津田 ハヤブサ2のプロジェクトは基本的にはゆっくり時間が流れましたが、ある瞬間ではものすごいクリティカルな場面を何度も体験しました。地球から三億キロ離れた小惑星リュウグウに一年半滞在し、ほとんど誤差なく二回も着陸することができましたが、トラブルの連続でした。実際は地表はとんでもなくデコボコで、とても着陸は不可能だという結論しか出せないような状況でした。
津田 六百人が一つのチームになって着陸を成功させるには、限界をたくさん知ることが重要だと考えていて、3年間あらゆる訓練を実施し、たくさんの失敗を経験させていました。お互いをいじり合ったり、助け合ったり、組織の階層はあるのですが、フラットなコミュニケーションが自然的に発生していきました。「責任は明確化する。しかし、役割はオーバーラップさせる」ことをキーワードにしてやってきました。ある意見を皆でフラットに議論し、その結果についてはリーダーが責任を取る。だから「発案は個人、評価はチーム、責任はリーダー」と発信し続けたことで、縦割り関係なく、末端の人でもアイデアを出しやすい雰囲気がつくれたと思います。頭がいい人が一人、二人で考えるよりも、凡人でいいから六百人がアイデアを出しまくった方が、時間はかかりましたが、最終的にはすごく頑強チームになる感覚がありました。積み重ねでしか何も成せないのです。
我らかく経営せり 渡邊直人氏・青谷洋治氏・河原成美氏
渡邉 創業の原点を忘れてはいけません。餃子の王将の創業者は「世の中には貧乏な人のほうが多いんや。そして貧乏な人が一生懸命働いてこの世の中を支えている。その人たちにお金のことを気にせず腹いっぱい食べてもらいたい。そう思って俺は王将をつくったんや」と、私利私欲ではなく、世のためひとのためにこの商売をやっているなと感じたので、この人に付いていこうと思いました。
青谷 私も同感です。今は会長となり、息子が後を継いでいますが、創業の原点を大切に、そしてもう一つ、徳を積んでほしいということを願っています。徳を積んだ人は一人にならず、支えてくれる人が集まってきます。徳を積むことに終わりはありません。リーダーとして一番大事なことだと思っています。
河原 僕が経営者としてひとつ守り続けてきたのは、いいことはおかげさん、悪いことは自分のせいということです。自分とは全然関係ないところで悪いことが起こっても、これは自分のせいやと思うようにしておく。そう決めておけば、迷うことはないし、挫けることもない。その積み重ねできょうまで歩んできました。
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