涙は人生に彩りを与えてくれる

歴史・哲学の本

<特集>涙を流す

釈迦の時代に生きた若い母親のゴータミー。産んだ赤ちゃんがすぐに死んでしまい悲しみにくれながら、「私の赤ちゃんを生き返らせる薬を下さい」と町中を歩き回った。気の毒に思った村人はお釈迦様なら薬をもっているかもしれないと教えた。

ゴータミーは森の中にいた釈迦を訪ね、生き返らせる薬を頼んだ。

「わかった。その薬をあげよう。しかしその薬を作るには白い芥子の種が必用だから、それをもらっておいで。ただし、その芥子の種は今まで一人も死者をだしていない家の芥子でなければだめですよ」

ゴータミーは急いで村へ帰り、家々を訪ねお願いした。どこの家も芥子をくれようとしたが、死者を出していない家は一軒もなかった。その時に彼女ははっと気が付いた。

世の中には大切な人と死にわかれていない人は一人もいない。

自分一人が不幸だと思っていたが、皆、大事な人と死別した悲しみに耐えて生きている。

お釈迦さまはそれを私に教えてくれたのだ。

自分だけが不幸だと、自棄になっている場合ではないのです。

塙保己一(はなわほきいち)の生き方が教えるもの 堺正一

ヘレンケラーが心の支えにした日本人がいたことを知っていますか?

その人は江戸時代後期に活躍した学者の塙保己一です。点字すらない時代に、盲目の身で学問の道へ進み血のにじむような努力をし、学者として誰からも尊敬される人物になったのです。

先人が残してくれた日本古来の固有の文化を後世に継承することを自身の指名とし、散逸した書物を集め、四十年もの歳月をかけて大文献集「群衆類従」六百七十冊を完成させたのです。

ヘレンケラーが初来日の折、浦和市で講演し、詰めかけた盲目学校の生徒や県民にこう話しかけました。

「私は苦しい時、悲しい時、挫折しそうになった時、塙保己一先生のことを思い出して、弱気になっている自分を奮いたたせることができました。塙先生は私の心の支えなのです」

会場はざわめきました。誰も塙保己一は盲目の学者というだけで、それ以上のことは知らなかったのです。

塙保己一は、七歳で失明し、十二歳で母と死別。十六歳で自殺未遂。(その後、祖父や弟、加茂真澄と相次いで死別)三十七歳で結婚したが、離婚。四十七歳に自宅全焼。五十二歳で後妻との間に生まれた長男の夭逝。五十七歳で次男の夭逝。五十九歳で最愛の妻と死別。

まさに山あり谷ありの生涯でした。特に自殺未遂後に人々の温情に触れて人生が変わったのです。「これからは自分の立身出世のためでなく、世のため後のために私のすべてを捧げよう」

大きな目標に向かい、些細なことに煩わされて腹など立てず、悩んだりすることを辞めました。

「感謝と報恩」の心の目で見れば、苦難があるからこそ輝く喜びがくっきり見えてくるのです。

塙保己一を知ると、できない理由なんて言えないですよね。

私の人生は涙と共にある 小巻亜矢

2014年に就任したころのサンリオピューロランドは赤字続きで成長どころか止血と延命が最優先のところまで追い込まれていました。それが2年で黒字化し、2025年には四期連続増収増益で、過去最高益を達成しました。

サンリオグループの創業者の思いは、「みんななかよく」を基に、面白さや興奮というより、優しい気持ちになってもらえるような場づくり。そこはブレずに徹底してコンテンツやサービスを作ってきました。

元々は来店する小さなお子様を「おともだち」と呼び、「どの鉛筆にしよう」「カレンダーもほしいな」と悩む姿が愛おしくて「買わなくてもいいからお店に遊びに来てねという気持ちで接してください」という社風でした。

そんな素敵なところだったのに、いつの間にか評判が悪くなってしまった。

まず何をしたのか。一人ひとりの話を聞くことから始めました。

・そもそも、なぜこの会社に入ったのか。
・なぜ苦しい時も辞めなかったのか。
・一番嬉しかった、楽しかったことは何か。
・お客様に見てほしいところはどこか。
・この先、ピューロランドがよくなるためには何が必要か。

すると、驚くほど1人ひとり熱い思いやアイデア、会社に対する愛を持っていることがわかりました。

魅力的なショーをつくれたわけでも、決定的な事業戦略を持っていたわけでもなく、とにかく社員が「自分たちは変われる」「自分たちはできる」という気持ちになってもらい、そこから胸に秘めていた思いやアイデアを少しずつ形にしていく。その積み重ねでした。

自分の息子を無くし、乳がん・子宮筋腫などの試練をのりこえた過酷な人生を歩み、51歳で東京大学大学院を受験した経歴をもつ小巻さんだからこそ、語った言葉が心にしみます。

振り返ると、喜びの涙、悲しみの涙、達成感の涙、悔しさの涙、感動の涙、感謝の涙。数々の涙と共に心が強くなりました。涙というのは人生に彩りを与えてくれるのではないでしょうか。

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人間学を探究して四十七年|総合月刊誌定期購読者数No.1|致知出版社

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