サグラダ・ファミリアはガウディが亡くなった後、建築中におきた内戦で設計図は燃やされ、模型も壊されてしまいました。そもそも自分が生きている間に完成すらできない途方もないプロジェクトがどうやってすすめられたのか。その秘密に迫ります。
人間がつくり得る最高のものを目指した
サグラダ・ファミリアの建築は19世紀の終わり、1882年に始められました。実は初代主任建築家は別の人物でしたが、1年ほどで辞任してしまいました。その通りの図面で作られていたならば、数ある教会として機能していたでしょう。2代目に選ばれたのが、実績らしい実績は何もない、当時31歳のアントニ・ガウディでした。施主である「聖ヨセフ帰依者協会」は会員数こそ多かったものの、寄付を財源としていたため、ゆっくりと建築が進められました。その間に有力なパトロンの信頼を得て、すばらしい作品を次々とつくりました。その作品を通じて多くの技術とアイデアを培い、惜しげもなく構想に盛り込むことができました。
人間を幸せにするものをつくろうとしていた
ほとんどの若者がそうであるように、とても完璧な人物ではありませんでしたが、主任の建築家になったことで、キリスト教の精神が見ようとしていたものを深く勉強するようになり、また多くの優れた宗教指導者と出会い崇高な人間へと成長しました。そして、神が創造した自然から素直に知恵を得ていこうとする精神が養なわれていったのでしょう。とても一人の人間が考えたとは思えない、途方もないものに変化していきました。
明日にはもっと良いものをつくろう
ものをつくる人間をダメにする確実な方法は、全体を考えさせず、細かい作業をひたすら義務としてやらせることです。そうするともう、現場での新しい発想が生まれてこなくなるだけでなく、いかに手を抜くかということばかり考える人が現れ、図面通り100%のものすらできなくなります。これは人間がつくっている限り、どうしても起こることです。何百年も時間がかかる建築の場合、小さな手抜きの積み重ねが致命傷となります。ガウディはそういう人間の性質を見抜いていました。
サグラダ・ファミリアは「天国に吸い寄せられているように見える」とよく表現されるそうです。奇妙な安定感と上昇感があるのは、理想的な構造をしているからです。さらに建物全体が楽器としても機能するなど、途方もないアイデアが散りばめられています。自然をよく観察し、人間の本質も見抜いていなければ、ここまで建設はできなかったでしょう。ガウディが亡くなった今もその精神は生き続けています。
<目次>
第一章 ガウディと職人たちとの対話
第二章 石に込められた知恵
第三章 天国に引っ張られている聖堂
第四章 人間は何も創造しない
第五章 ガウディの遺言ー「ロザリオの間」を彫る
第六章 言の葉が伝えるものー「石の聖書」を読む
第七章 ガウディを生んだ地中海
第八章 ライバルとパトロン
第九章 ガウディと共に育つ森ー十九世紀末のバルセロナ
第十章 神に仕える建築家の誕生
第十一章 孤独の塔、サグラダ・ファミリア
第十二章 永遠に満たされていくもの