2024年致知8月号
<特集 さらに前進より>
さらに参ぜよ三十年
「悟ったからといっていい気にならず、悟った後もずっと修養を続けていけ」という戒めの言葉です。その「さらに前進」と言えば、二宮尊徳である。報徳実践の道は4つ。「至誠を元とし、勤労を主とし、分度を体とし、推譲を用とす」真心尽くすことを根本とし、勤勉に働くことを主とし、常に分度(分限)を守って生きることを土台とし、推譲(今年得たものの一部を明年に譲り社会に譲る)を必要不可欠な働きとする。この四つの実践訓を徹底反復することで、尊徳はあの動乱の時代に一発の銃弾も撃たず、一滴の血も流さず、衰弱疲弊した六百余村を荒廃から救ったのです。「人間はいつか終わりがくる。前進しながら終わるのだ」
<脳が求める生き方より>
さらに前進する人の思考はどこが違うのか 林成之
人は、誰しも「潜在能力」というものすごい才能を秘めています。しかし、自分で自分の潜在能力を放棄している人の何と多いことか。脳はいくつかの“本能”を持っていて、中でも強い影響力をもっているのが、5つ「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」「伝えたい」「自分を守りたい」です。これらの本能を生かせば素晴らしい力を発揮しますが、「自分を守りたい」という自己保存の本能が、往々にして悪さを働くのです。
自己保存の本能とは、現状維持を求める心
失敗への恐怖に支配されると、文字通り「現状維持は衰退の始まり」の状態に陥っていきます。人間誰しも失敗はあります。大切なのは失敗しないことではなく、失敗しても止まらず、前に進み続けることです。実は脳の仕組みからして大変面白い、示唆に富んだ命題なのです。当時、なでしこジャパンの佐々木監督から「先生、頭を強くする方法はありますか」と相談を受けた時、教えたのが「そうだね」でした。後から何を言うかに関係なく話す時には必ず「そうだね」と言ってから話す、同調して会話を始める。すると、否定されることへの恐怖がなくなり、聞く側も相手の言うことに興味を持ち、受け止めるようになります。自ずと潜在能力が引き出されるのです。
潜在能力を引き出す「育脳」
日常生活に活かすならば「面白そうだね」「楽しそうだね」とポジティブな言葉を使いながら話すこともよいでしょう。また、もう一つ注目していただきたい「同期発火」という脳の特徴があります。それは、スポーツの世界では、どんな強い相手でも「自分だったら勝てる」と思えば同期発火が起きて肉薄できる可能性が高まります。逆に「勝てるかどうか分からない」と考えて闘っていたら負けます。卓球女子日本代表の監督に「53年間、中国に勝てないんです」と言われた際、即座に「今日は絶好調」「今日は自分の日」と思いなさいと伝えました。そうすることで、潜在能力が解放され、番狂わせの確率が高まるのです。
<愛の力が人生の試練を乗り越えさせてくれた> 岩朝しのぶ 山崎理恵
山崎さんは「どんなに重い障碍があっても、皆に役割がある」という信念から、重症児のディサービス「みらい予想図」を事業を設立しています。3人目を出産した時に、医者から「言いにくいけど、この子には目がありません」と言われ、絶望で主人と泣き続けました。外に連れてでると近所の子どもがワーッと寄ってきて、見たこともない容姿を見て「この子可哀想」「気持ち悪い」とやっぱり言われ、その言葉一言一句で傷ついていました。ところが、最初は「気持ち悪い」と言っていた近所の子が「いや、音十愛ちゃん可愛いね」と言い始めたんです。そこで知らないことが怖いんだと学んだんです。
岩朝さんは、先天性の内臓疾患で入退院を繰り返す生活。重症な子ばかりで突然夜中に泣きさけぶ声がし、一生懸命生きようと頑張っている親子がいる。そんな環境で大人になり、里親制度のボランティア時に、育児放棄や虐待で保護されている子がいることを知りました。三十五歳で五歳の子を受け入れましたが、最初は「何を食べたい」と言っても何も言わないんです。後でわかったことですが、ハンバーグもスパゲティも知らなかったんです。その子も「試し行動」といって泣き叫んだり、抱きしめる私を嚙ったりつねったりを繰り返しました。里親というと養子縁組とか孤児を引き取ることだと思っている人が少なくないのですが、支援が必要な子の95%に親権者がいます。そのため、その子も実の親が突然親権をだしたことで、外傷もなかったことから返すことになりました。その後四歳の里親となりましたが、増え続ける児童虐待や育児放棄を何とかしたいという一念から認定NPO法人「日本こども支援協会」を立ち上げました。
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