牛乳パックに水ようかんを入れて売ろう、とは普通は考えない。水ようかんだけではない。杏仁豆腐、プリン、コーヒーゼリーやパンナコッタ、レアチーズケーキなどのスイーツをすべて牛乳パックに入れて売っているのが、「業務スーパー」なのだ。
業務スーパーが牛乳パックでようかんを売る合理的な理由 [ 沼田 昭二 ]
誰が買うのか?1リットルのスイーツ
牛乳パックに入った1リットルのスイーツだから、とにかくでかいし食べづらい。開けたらどうやって保存するかも考えなくてはいけない。ところがこれが人気なのだとか。まず、単価が安い。パッケージには7〜8人分と記されていて単価は311円(23年10月時点)だから、一人あたりおよそ40円。いくら安くても食べきれないと思うのだが、ネット検索するといろいろな活用法が載っている。そう、みんな悩んでいるし、食べるには工夫が必要なのです。
変の店、変な商品
創業者の沼田昭二氏の利益を生む鉄則は、実は合理的なのです。店に入ると、普通の食品スーパーと全然違う。店の中央には大きな冷凍食品の売り場がどんと置かれ、商品の多くが段ボールのまま陳列。暖色の照明で彩られた他店と比べたら殺風景とも思えるが、お客さんは気にする様子もなく、他では売っていないような商品を購入している。これにはもうけを生み出すための「沼田流」の思想が随所に散りばめられているのです。
細胞レベルまで分解して考える
ビジネスモデルを構築するとき、大切なのは「精密に、周到に、合理的に作ること」です。まずは仕組みですが、理想的なのは「一度動き出せば、それほど労力をかけずに、長い期間もうかる」というものです。そのためには、細胞レベルまで分解して考えることが重要です。分解した上で、その成り立ち、仕組みを理解します。仕組みに必要な要素を原理原則まで理解してから計画を立てるのです。ですので、業務スーパーの構想を固めるまでに2年の歳月がかかりました。ですが、軌道に乗れば成長の最短ルートを描くことができるのです。人も金も自然と集まります。
<レビュー>
「タマゴとは何なんだ」から考える
商品開発を通して業務スーパーの考え方の基本となる部分は、「細胞レベルまで分解」する思考法に則っています。商品で言うと、「この商品は何からできているのか」「どうやって作られているのか」といった根本的な部分まで理解して、そこをスタートラインに考えるのです。今知っている商品をベースに考えた場合、その常識に基づいたアイデアしか生まれません。厚焼玉子の場合、普通は「タマゴでつくるものだろう」と思いますが、業務スーパーの厚焼玉子には豆乳が原材料に使われています。突き詰めて考えると、タマゴとはすなわち「タンパク質」です。タマゴのタンパク質が熱されて、凝固したものが卵焼きとなるわけです。いわゆる「タンパク質焼き」といってもよいでしょう。最終的にはタマゴと豆乳を配合して、タマゴの割合を下げるという製法を考えることで、コストを抑えられ、まろやかな味わいの卵焼きができたのです。
<目次>
【第1章】「変」な商品は実は合理性のかたまり
~記者の眼 ゾウネンタトウルイって何? 取材は専門用語の嵐
【第2章】ロイヤルティー1%が必然だった理由
~記者の眼 業務スーパーの「変」を根掘り葉掘り
【第3章】「変」な工場再建からオリジナル商品が生まれる
~記者の眼 黒字でも容赦なし 買収先が驚愕する割り切りと速度
【第4章】なぜ、沼田氏は起業家を志したのか
~記者の眼 取材で見た沼田氏の「ちょっと変?」な素顔
【第5章】業務スーパーはこうして生まれた
~記者の眼 「頭を下げなくていい商売」はドル箱の証
【第6章】創る人から磨く人へ 受け継がれる「ドル箱」
【親子対談】長男から、2代目から見た沼田昭二
~記者の眼 「後出しじゃんけん」がドル箱を生む
【第7章】再びゲームチェンジャーを目指して